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2015年1月6日火曜日

国外派遣軍への法案準備


12月28日から29日にかけて、集団的自衛権に関する7月の政府解釈変更に伴う新規立法の素案が政府関係者から明らかになったと報じられた。

共同通信、NHK、朝日新聞、日経が電子版(*)で伝える内容は、およそ4つにまとめられる。

1)集団的自衛権行使規定を自衛隊法に新設し、その要件を「存立事態(仮称)」として武力攻撃事態対処法に定める。
2)自衛隊の、地理的制約のない国外派遣を随時可能にし、それが「後方地域・非戦闘地域」に限らず活動できるようにする派兵恒久法を、「支援・協力活動法(仮称)」として新たに定める。
3)国連PKOにおける「駆けつけ警護」や任務遂行のための武器使用を新たに可能とする。
4)いわゆるグレーゾーン事態における自衛隊による武器使用を迅速にする「警備領域法案」を新たに定める。

【1】集団的自衛権行使:他国のための実力行使へ

新たに定められる「存立事態」とは、昨年7月閣議決定で、「①わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、②これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、③これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使する」と宣言されたことを受けるものだ。

現行自衛隊法第3条の任務規定は、第1項で「主たる任務」として国の防衛、第2項で「主たる任務」を妨げず「武力行使に当たらない範囲」での国外活動を定めている。自衛隊という名称にあるように、自衛隊の設置目的・本務はあくまでも「国の防衛」にあるわけだ。ここに様々な限定を設けてであれ「他国に対する武力攻撃」についても任務と定めることは、自衛隊の本質を変えることに係る。

この閣議決定の中味を自衛隊法第3条のどの項に入れるのか、第2項に入れるとしたらどのような文言規定にするのか。また、「存立事態」は武力攻撃事態対処法でどのように定義するのか。こうした点は報じられていない。

公明党などは、先の閣議決定では様々な限定が施されているので、「他国に対する武力攻撃」への対処を新たに加えても、自衛隊の活動・あり方は実質的に変わらないと主張しているようだ。

しかし、この閣議決定の長たらしい文言がそのまま法規定されるとは思われない。またこの文言自体にはいくつもの曖昧で多義的な言葉が含まれており、それが自衛隊の新しい活動・あり方を従来のものと変わらない範囲に限定する保障はまったくない。

【2】海外派兵:いつでも、どこでも

共同通信(12/28)は、政府は「自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法を制定」し、米軍・多国籍軍への支援を想定して、自衛隊の「任務拡大や迅速な派遣を目指す」方針だと報じた。「自衛隊を派遣する対象として、侵略行為をした国などに制裁を加える国連安保理決議に基づく活動や、米国を中心とする対テロ作戦のような有志連合の活動などを想定している。派遣に際しては、活動内容や区域を定めた基本計画を閣議決定し、国会の承認を必要とする方向で調整している」(朝日)という。アフガニスタンにおける治安維持支援を名目としたNATOのISAF(International Security Assistance Force)のような活動への参加が考えられているのだろう。

1)個別の特別措置法から派兵一般法へ

自衛隊の「主たる任務」ではない国外での活動については、これまで、主として(イ)いわゆる周辺事態における活動と、(ロ)他国軍に対する国外での支援活動、そして(ハ)国連PKO活動が定められていた。

このうち(ロ)は、9.11事件後のテロ対策特措法や、米国のイラク侵攻後のイラク特措法である。問題事例ごとに国会が定める時限的な特別措置法であり、期限が切れればその度に国会で延長されなければならなかった。そこで、「自衛隊を迅速に派遣できるようにし、法律を延長しなくても活動を継続できるようにする」(NHK)ため、事例ごとに特別措置法を定めるのではなく恒久的な法律を定めるとのことだ。

これに伴い、(イ)の周辺事態法も廃止し、「新たに“支援・協力活動法(仮称)”を制定する」(日経)。「周辺事態法を改正し他国軍支援の枠組みとする案も政府内で検討されたが、活動を広げやすい恒久法に傾いた」という(共同)。

2)「非戦闘地域」の見直し

国外での活動といっても自衛隊には、活動する場所について現行法で一定の制限が加えられている。実際に戦闘が行なわれている場所で自衛隊が活動すれば、自衛隊自身が武力を行使しなくてもその活動は「他国軍の武力行使との一体」のものとなるからだ。

そこで、自衛隊が活動できる場所について、(ロ)は「非戦闘地域」に限るものとし、(イ)では更に「日本周辺の非戦闘地域」に絞ってこれを「後方地域」と呼び、そこに限定した。ここで「非戦闘地域」とは、「現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる」地域というものだ。もっともこの制限は、小泉純一郎首相による「法律上は、自衛隊の活動している所は非戦闘地域」という有名な迷答弁(2004年11月)で露わになったように、かなり曖昧なものである。

周辺事態法は廃止されるので、新たな「支援・協力活動法(仮称)」には自衛隊の国外活動を「日本周辺」に限定(「後方地域」)する地理的制約はなくなり、「非戦闘地域」であれば地球上どこもが自衛隊の活動地域になる。

3)武力行使への接近

現行法では、「非戦闘地域」を「活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがない」に限るという将来にわたる時間的限定がある。新法ではこの縛りを外し、「派遣時に戦闘がなければ、自衛隊を派遣できる内容だ」(朝日)という。支援対象の他国軍が「現に戦闘を行っている現場」では支援活動は行なわない(閣議決定)が、その現場「以外での補給や輸送は『武力行使との一体化』にはならない」(共同)として、「武器・弾薬の提供や戦闘に向かう航空機への給油・整備も可能にする方向」(日経)と伝えている。

【3】PKOでも武器使用へ

自衛隊の国外活動のうち国内世論では評判の良い(ハ)国連平和維持活動(PKO)への参加についても、現在の根拠法であるPKO協力法を新たに作る「国際平和安定活動法(仮称)」におき換えるとされている。PKO以外の何らかの活動、例えば海賊対処法によるソマリア沖などでの警備行動のような活動を「国際平和安定活動」として自衛隊の国外活動に加えるということだろうか。現時点の報道からはその中味は分からない。

PKOは、国連において紛争当事国における紛争から平和への移行の過程を助ける活動とされている。紛争当事者の同意(a)、中立性(b)を要件に、参加国が派遣する主として軍・警察の要員からなる部隊によって担われる。参加要員は武装していても、そこでは自己または他の要員の防衛以外での武力は行使しない(c)のが原則である。

PKO部隊は紛争地域に派遣されるのであるから、自己防衛のための戦闘を余儀なくされることが当然にある。要員の犠牲者もこれまでに約2000人に達している。憲法第9条により国外での武力行使を認めていない日本は、自衛隊にPKOに参加するにあたっても、当事者による停戦合意の成立(d)をも要件とし、a)b)d)が満たされない状況では撤収(e)することとした。更に、c)についても「要員自身の生命等の防護のために必要な最小限のもの」、つまり警察官と同様に正当防衛や緊急避難の場合に限った(c')(PKO参加5原則)。こうして自己防衛のためであっても武力を行使できない自衛隊は、そうした戦闘がおこる可能性の高いところから「外される」ようにしてPKOに参加してきた。

ところが素案は、「離れた場所で武装集団に襲われた外国部隊を救援する「駆けつけ警護」や任務遂行のための武器使用を認める」(11.29.日経)という。自らが襲われていなくても、他国部隊が攻撃されればすすんで「救援」に駆けつけて武器を使うという訳だ。それにしてもまた「任務遂行のため」とは大きく出たものである。PKOに参加する部隊は、攻撃を受ければ自己防衛のために戦闘することも「任務遂行のため」に必要となろう。

アフガンでのISAFの「治安維持支援」活動のような活動も「国際平和安定活動」に当たるというのなら、そこにおける「任務遂行のため」の武器使用は、まったく憲法第9条が禁ずる武力行使と変わらないものとなるだろう。


【4】「グレーゾーン事態」における自衛隊出動の簡便化

「11.29.日経」は、「外国軍艦などが領海内に長時間とどまったり、武装漁民が離島へ上陸
し領有権を主張した場合、公海で日本船舶が武装集団に攻撃された場合」の3事例を、武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」とし、こうした事態に「自衛隊が迅速対処できるように手続きを簡素化すると共に、共同で行動する米艦を防護できるように自衛隊法を改正する」と報じている。

警察や海上保安庁による一般の警察行動としての対応では、武器使用に制約があって不十分であり、自衛隊が海上警備行動や治安出動で動くには、「閣議決定を経て防衛相が海上警備行動を発令する」といった「手続きに時間がかかる懸念があった」というのだ。米艦防護がなぜ「グレーゾーン事態」の中で取上げられるかは報道からは分からない。

<今後の見通し>

素案の報道から読み取れるのは、自衛隊を海外派遣軍に改変し、武力行使がなされる現場に自衛隊をおく企てが、具体的な法の姿をとっていることである。法の形式だけみても、これまではアドホックに作られてバラバラにあった自衛隊海外派遣の法的しくみを、9条改憲がなされた後にもそのまま使えるような、体系性ある法制へまとめようとしていることが見て取れる。

こうした新規立法の今後の見通しについて、「12.28.日経」は、「自民党の高村正彦副総裁と公明党の北側一雄副代表は27日、都内で会談し、15年1月下旬の国会召集前に安保法制の全体像をまとめる方針を確認した」と報じている。他方、「朝日」は「新法を含めた安保法制全体の協議を来年1月下旬に始める方向で調整している」としている。1月26日からの通常国会の開会前後までには与党内で新たな動きがあるのだろう。公明党は総選挙で支持を増やしているので、自民党に対する発言力も強くなっているかもしれない。

公明党は「幹部を中心に、新法が必要との主張に一定の理解を示しているが、同時に活動範囲や内容を限定して国会承認を厳格にするなど厳しい「歯止め」が必要との立場」(朝日)で、「周辺事態法の廃止や中東での機雷掃海に慎重論が根強」く、「党内の一部には、今の特措法による対応で十分との意見も残」り、「恒久法により自国防衛と関係のない自衛隊海外派遣が増える状況を懸念している」という(日経、朝日、共同通信)。

「政府は、来年の通常国会で、安全保障法制の整備に取り組むことにしていて、4月の統一地方選挙後に、集団的自衛権の行使を可能にする法案などと併せ、後方支援のための法案も提出する方向」(NHK)、「新法を含めた法案審議入りは、春の統一地方選挙後」(朝日)、とのことである。いつもながらの徹底した瞞着の政治操作だ。
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朝日新聞「他国軍の後方支援に恒久法 自衛隊派遣容易に 政権検討」石松恒
http://digital.asahi.com/articles/ASGDX5JMSGDXUTFK005.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASGDX5JMSGDXUTFK005

共同通信「自衛隊海外派遣へ恒久法 対米後方支援を拡大 政府自民、来春提出検討 公明慎重、曲折も」

http://www.47news.jp/47topics/e/260683.php
http://www.47news.jp/CN/201412/CN2014122701001119.html
http://www.47news.jp/CN/201412/CN2014122701001550.html

日本経済新聞「外国軍艦の領海侵入、首相判断で自衛隊出動 安保素案」 http://www.nikkei.com/article/DGXLZO81458010Z21C14A2PE8000/


NHKニュース12月29日「自衛隊派遣 「非戦闘地域」見直す方針」(リンク切れ)