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2013年6月27日木曜日

ゲームのルール

生活保護法改正案と生活困窮者自立支援法案という生活保護門算払い2法案が廃案となったことを受けて、早速、安全網が整備できないのは残念だ」(田村厚労相)、「生活困窮状態から脱却できるセーフティーネットを構築するに至らなかったことは極めて遺憾」(連合)といったキャンペーンが早くも始まった。

朝日』は、2法案は不正受給の引き締めと「生活に困る人の自立支援」がセットであるが、「自立支援」こそが今回の2法案の目玉だったと解説している。デマである。生活保護に駆け込む人に収入証明などの書類提出を申請時に課したり、親族の扶養義務(この民法規定はとても合憲とはいえないもの)を優先させることは、悪名高い水際作戦の制度化でなくて何であろうか。最低賃金以下で就労機会を提供し、数ヶ月だけ住居扶助同等額を支給することがどうして有効な支援になるというのか。これは自立支援の名の下に困窮者を低賃金労働に縛り付け、生活保護の受給をさせない効果しか生まない

ところで、今日の『日経』と『朝日』の社説には呆れた。申し合わせたかのように「こんな参院ならいらない」と喚いている。どうやら電気事業法改正案や生活保護関係法案が成立しなかったことが気に入らないらしい。


首相問責決議を出したのがけしからんとか、問責決議は先決するという慣例を無視すべきだったとか、およそ制度やルールというものの意味が分かっていないことを社説で書き立てている。


問責決議というカードがある以上、予算委員会に首相が出なければ、野党にこのカードを切られる可能性があるくらいのことは予め分かっていた筈だ。ましてや野党所属の議長問責決議を出しているという状況だったのだから、この可能性を警戒するくらいのことはあって当然だろう。


そしてまた、自民と民主が法案成立で腹を合わせたとしても、他の野党がそのシナリオに乗るとは限らないことは、選挙を目前にしている以上、十分に考えられることだったのではないか。


つまり問責決議という制度があり、それを先議するという慣例(ルール)がある。そうだとしたら、各アクターがこれを駆使して動くこと至って当然のことでしかない。


敗戦チームのファンは、「あの時のペナルティ・キックはなかったことにすべきだ」とか、「あのときのデッドボールはなかったことにならないか」とぼやいたりする。しかし、両紙の社説はそんな穏やかのものではない。何しろ「こんな参議院はいらない」というのだから、これはペナルティ・キックのないサッカー、デットボールのない野球にしろと要求するのも飛び越して、ともかく自分たちが勝てるサッカー、勝てる野球のルールにしろと主張しているに等しい。


こうした思考からは、たとえ参議院を廃止して一院制議会にしたところで、その議会で諸党派が議員運営ルールを駆使して闘った挙げ句に、自分たちが臨む法案が通らなければ、「そんな議会は要らない」と言募るようになることは目に見えている。


昨夜は、10日間、共同声明に寄せられた430以上のメールを処理し続けたご褒美においしいものを食べた。大桃豆腐のゴマ豆腐に、裏の地酒屋で買った灘は泉酒造の「夏純米・一火」のラベルのついた琥泉 純米吟醸 無濾過生原酒である。17度もあるが、適度の酸味が口当たりよく、ぐいぐい呑んでしまった。


それにしても疲れたなぁとぼんやりお気に入りの Guardian のサイトを見ていると、テキサス州議会で何と11時間にわたるマラソン発言による filibuster があったという。若い人には適わない。『朝日』や『日経』の社説子はこれを見てどう思うのだろう。

2013年6月26日水曜日

なぜ今、保護申請排除なのか?



自分でもよく分からない成り行きで、生活保護法改正と生活困窮者自立支援法案に反対して、大学研究者が声を上げる運動の連絡係をしていた。専らEメールで呼びかけて反対の共同声明への賛同を集め、これを社会的にアッピールしていこうという運動だ。殆どがEメールをいじるだけの無精な作業なので何とかこなせるだろうと思って始めた。それが嬉しい(?)予想外れ。そもそもが会期末が迫る中での国会審議を相手にすることで、この状況は絶えず変わっていく。そこにどさどさと賛同メールが寄せられてくる。半日以上放っておくわけにも行かない。3時間おきに処理していると、他のことをする余裕がなくなってしまった。

という次第で、その間に書いた短文を記録のために載せておく:
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関連2法今回の2法は不正受給を減らすためと喧伝されています。しかし、こうまでして減らすことが目されている不正受給はどの程度あるのかといえば、過去最悪の2011年度でも約173億円(3万5568件)です。たかだかこれだけの額のために保護申請の敷居を高くするという制度の入口を狭める。これは異様なことです。不正受給を減らすのが目的なら、審査を厳格にして対応すれば済むことでしょう。

院内集会での布川さんの報告で、僕は驚くべき数字を知りました。
相対的貧困線(平均収入の半分以下の収入)は97年の約150万円から、2009年には約125万円へと下がっている!(このこと自体、貧困が広がっていることを意味しています)。にも拘らず、そこに属する人の比率:相対的貧困率は同じく約14.5%から約16%へと上昇しているというのです(かりに97年レベルの150万円に相対的貧困線を引上げたとしたら一体、その率はいくらになるのでしょうか?)
貧困の定義を機械的に「平均収入の半分以下」とするとしても、この惨状です。

今回の生活保護法「改正」案と自立支援法案の狙いを見るには、貧困の拡大・深刻化の現状を掴まなければならないと、改めて思いました。そうして翌15日、「協同総研いのちとくらし」のシンポジウムでの後藤道夫さんの報告から、多くのことを学んで次の文を書きました。
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この国の10人に1人(約1185万人)が生活保護基準未満にいるのに、そのうち約15%(215.5万人)の人しか生活保護を利用していません。他の生活困窮者(約970万人)の多くは、厳しい「水際作戦」や「自助努力もできない困った人」といったレッテル貼りを避け、「生活保護は自分と無関係」と思い込み、自らを受給者から区別し、「棲み分け」の中でひたすら我慢を重ねています。
マスコミが煽る生活保護叩きに強く同調し、最も激しくバッシングに加わるのはその人たちだと思われます。

しかし、2割失業社会がやってきて、年末派遣村など反貧困の運動が進むなかで、生活保護の利用者数はじわじわと増えています。96年には、世帯利用率1.4%、人員利用率 0.7% だったのが、15年後の2011年には、世帯利用率3.1%、人員利用率 1.6% へと急増しているのです。

「企業が世界で一番活動しやすい」社会作りが進み、働く者の生活苦が続けば、これまで生活保護を受けず我慢に我慢を重ねていた人たちも、「それなら私たちだって」と、生活保護を求めるようになるでしょう。
その時、生活保護バッシングに現れたエネルギーが向かう方向は、必ずやが逆転します。

その事態を未然にくい止めるために、何が何でも生活保護の利用率を引下げる。
これが支配層の危機感からくる結論です。

昨夏成立した社会保障制度改革推進法は、「自助・共助」を社会保障に優先させるという憲法25条を解体する方向を打ち出しました。これにそって生活保護制度の根底を覆そうとするのが、今回の生活保護法改正案であり、自立支援法案です。 

今度の生活保護法改正案が閣議決定され国会に出たとき、僕はあの橋下発言の成り行きばかりを見ていて、恥ずかしいことにこの問題に気づきませんでした。しかし、橋下を支える人々が少なからずもっている差別感覚には、生活保護バッシングなどの分断キャンペーンで強化された意識に通じるところがあります。<改憲ー女性蔑視ー差別ー生活保護解体>、これはワンセットで捉える必要があると感じます。 


明文改憲の政治日程はまだ先であるのに対して、今回の2法は、既に現実となっている生活困窮者の差別と排除を永続的な構造にするという、差し迫った現実の攻撃です。これら2法案が通ったら、一体この日本社会はどうなるでしょうか?
生活保護が崩されてしまっては憲法9条は守れません。 

18日から2法案は委員会審議入りしました。21日の参考人質疑までは日程が決まっています。しかし、採択日はまだ決まっていません。そして会期末は26日です。

力を合わせて廃案に追い込みましょう。

2013年6月11日火曜日

盗聴してくれれば安全?

政府の情報セキュリティー政策会議が、15年度までの「サイバーセキュリティー戦略」なるものをすすめ、IT企業が利用者のネットの利用状況を解析したり、利用内容の履歴を保存することについて検討を始めるという

相前後して、弁護士落合洋司さんのブログで、米国家安全保障局 National Security Agency(NSA) による  PRISM なるネット盗聴(当然に全世界規模)を知った。かの国では、米国民は対象外と説明し、関わっている企業は便宜提供を否定しているようだが、どうして日本では余り問題にならないのだろうか?
お上が盗聴してくれていれば安全だと信じている人ばかりなのか?

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20130608#1370667430

http://wirelesswire.jp/Watching_World/201306071508.html

・NSA slides explain the PRISM data-collection program - Washington Post
http://www.washingtonpost.com/wp-srv/special/politics/prism-collection-documents/

・Documents: U.S. mining data from 9 leading Internet firms; companies deny knowledge - Washington Post
http://www.washingtonpost.com/investigations/us-intelligence-mining-data-from-nine-us-internet-companies-in-broad-secret-program/2013/06/06/3a0c0da8-cebf-11e2-8845-d970ccb04497_story.html

http://www.guardian.co.uk/world/2013/jun/06/us-tech-giants-nsa-data

英国GCHQも関与
http://www.guardian.co.uk/technology/2013/jun/07/uk-gathering-secret-intelligence-nsa-prism

http://www.spiegel.de/international/world/prism-leak-inside-the-controversial-us-data-surveillance-program-a-904761.html

・Obama Administration On PRISM Program: 'Only Non-U.S. Persons Outside The U.S. Are Targeted' (UPDATE) - HuffingtonPost
http://www.huffingtonpost.com/2013/06/06/obama-administration-prism-program_n_3399858.html

・Google, Apple and Facebook Outright Deny They're Helping the NSA Mine Data - AllThingsD
・Facebook, Apple, Google, Microsoft, Dropbox and Yahoo deny participation in US government spying program PRISM - TNW

2013年6月5日水曜日

明文改憲に目を奪われていると

先だっては「マイナンバー法」なる個人情報一括管理法があっけなく通ってしまった。そして今度は、生活保護を申請すること自体を難しくする生活保護法「改正」案が出され、これまたさっさと衆院を通ってしまった(橋下デマ発言などに目を奪われていたことが恥ずかしい)

これは、生活保護の不正受給をなくす”との触れ込みで、申請の際に資産や収入証明書類の添付を義務づけるものだ。生活保護など自分とは縁がないと思っている人には「当り前だろ!」と思われることかもしれない。しかし、困っている時には資産証明、収入証明どころではないのである。まず「助けてください」があって、次にこれを受け付けた福祉事務所が保護の要否を審査する。資産や収入の証明はこの審査の段階でなされる。そもそも生活に困っている人は日々の生活や病気で、資産証明、収入証明どころではないのである。

申請段階にこうした高い敷居をつくることは、悪名高い北九州方式とか「水際作戦」として全国の窓口で問題となっている門前払いの追認ではないか。それは生活保護申請数そのものを減らすことによって、生活保護の開始決定が少なくても保護開始不決定の率が上がらないように見せかけ、餓死者が増えようが、自殺者が増えようが「窓口としてはちゃんとやっています」「日本の福祉は悪くなっていません」とごまかす効果ももっている。

「生活保護基準が高すぎる!」と叩いたかと思ったら、今度は申請自体をはねつけようというわけだ。実に腹が立つ。この門前払い方式の制度化は、改正案のままでは露骨過ぎ、国連の社会権規約委員会からも非難されたため、「特別の事情があるときは、この限りではない」という例外扱いを認める修正がなされた。しかし、原則は書類提出である。一体、誰がこの「特別の事情」を訴え、それを誰が認定するというのか? 申請の敷居が著しく高くされたことには変わりはない

96条改憲に反対するのも結構だが、こうした並の法律改正によって着々とこの国の社会基盤が壊されていくことをくい止めなくては、明文改憲反対どころではなくなってしまう。